
秋の気配が日に々に濃くなり、心の奥に静かな安らぎをもたらす一方で、2025年の幕が下りようとしている事実に淡い不安を覚えます。
その落ち着かない感情を押し隠すようにシャッターを切りますが、写真を見返すほどに、むしろ季節の足早な移ろいを突きつけられるようです。
来年の構想を頭の片隅で並べながらも、ただ目の前の作業に手を動かす日々。
ふっと一息ついたときにはもう、新しい年が始まっているのでしょう。

気分転換に、ほんの少し近所を歩きます。
半径50メートル、わずか10分の散歩。
それだけの距離でも、道端の草花がそっと告げてくれる夏の終わり。
秋は、一番好きな季節です。

むかし、会社員だったころに上司を困らせたことがあります。
同じように秋の始まりのころ、仲良しだった人事部長との恒例の食事会。
「食欲の秋、なに食べたい?」と尋ねられて、私は迷わず「かぼちゃ」と即答しました。
……か、かぼちゃ。
グルメで知られていた部長も、斜め上を見上げて戸惑った様子でした。
数日後、中目黒の高層マンションの一室にひっそりと構えた洒落た和食屋で食事をしました。
確かにかぼちゃは出てきたはずですが、あまり記憶に残っていません。

しがない平社員だった私に、なぜ他部署の部長との「食の定例会」があったのか。
それは、ふと口にした「鮨屋になりたい」という言葉が、その部長のグルメ魂に火をつけてしまったからでした。
その部長は、若手を育てるのが大好きないわゆる世話好き上司。いや、" 育成ジャンキー " と言ってもいいかもしれません。
新入社員のころに将来のビジョンを聞かれ、私は正直にこう答えました。
「いずれ独立して、鮨屋になりたいです」と。
もともと独立志向が強かった私は、「会社に尽くします」なんて嘘は言えませんでした。
だからこそ正直に、数年で独立するつもりだと伝え、さらにこう続けました。
「鮨屋のように、新鮮で旬なものを、お客さまの目の前で握って出す。そんな洋服屋になりたいんです」
その瞬間、部長の目が輝きました。
「よし、お前に東京の一流鮨屋を見せてやる」
そう言って、麻布、銀座、広尾、神楽坂......回らない鮨屋を月に一度のペースで案内してくれたのです。
そして毎度のことながら、大将に向かってこう切り出す部長の姿が忘れられません。
「こいつは鮨屋になりたいって言ってね。つまり、旬のものを目の前で……」
乾杯の前から、まるで自分の夢ように熱く饒舌に語っていたのでした。

けれど私は、その真逆とも言える世界線で生きてきました。
ただひとつ、「目の前で握る」という夢は叶えています。
目の前でやることに嘘は付けません。
すべてを見せ、誠実に応えることに私はやりがいを感じています。
なれなかったし、なりませんでした。

半径50mを撮ったレンズ。
Top画と最初の2枚が「7artisans 35mm F1.4 Ⅲ」
途中の3枚が「MS-OPTICS DAGONAR 40mm F6.3」
最後の1枚が「Jupiter9 85mm F2.0」