
皆さんにも特別な街、思い出の街というものがひとつやふたつ、きっとありますよね。
「渋谷」という街は私にとって、苦しみと喜びが交差するところです。
山手線を降りて、東と西どちらの改札を抜けるかでが胸の鼓動がかわるくらいに対極の思い出がある街。
雨から始まった10月。
仕事終わりに少しだけ、喜びの記憶が深い、渋谷の西側を撮りました。
こっちは独立後の渋谷。あっちは独立前の渋谷なんです。
もうすぐ独立して10年が経ちますが、いつだって渋谷駅は工事をしていました。(現在進行形)
すっかり様子の変わってしまった改札をみると、昔のいやな記憶も薄れていきます。
工事のたびにころころと通路が変わり面倒に思うこともありましたが、良いこともあるんですね。
この丸っこいのは、私がとても好きな作品。
吹き抜けの二階から覗くと螺旋状の鉄階段も相まって、古代の翼竜類が産み落とした卵が近代建築の巣のなかに取り残されているようです。
彫刻家 安田侃(やすだかん)による「天秘」
この他、神奈川県や北海道、兵庫県にも同様の作品が設置されています。
Topの彫刻も安田侃による作品「帰門」
まさに今、芽を出そうとする種のようです。
この作品をみると陶芸家 濱田庄司の言葉が思い浮かびます。
見て何かを感心するのは、特に若い時はなおさら結構です。
有無をいわさずに、まねでもしたくなることも結構です。
しかし、もう少し落ち着いて、どうして、どういうふうに自分に響くのかなど・・・
たとえば、地上には樹木の形と花のように咲いたものがあるんですけども、実際は、その地下に根があって、見えないところの根が自分を呼んでいるんだと、そこまで落着いて見直す。
枝や花で勝負するより、根で勝負をしてほしい。
また花の結果を実を結んだ時と思わず、その実が地へ沈んで来春芽を出した時を答えとして受け取りたいのです。
濱田庄司 無盡蔵

天秘や帰門などの彫刻作品が展示されているのは「渋谷区文化総合センター大和田」です。
私の衣服標本家としての仕事は、ここの二階にある「ギャラリー大和田」から始まりました。
このBlogを読んでくれている方のなかには、半・分解展を観るためにギャラリー大和田へ足を運んだことのある人も多いはず。
次にお越しになった際は彫刻にも目を向けてみてください。
ちなみに、次の展示は【アール・ヌーヴォーとスーツ展】ですよ。

ギャラリー大和田への行き帰り、「さくら坂」を通る方も多いでしょう。
アイドル史に残る伝説の楽曲「サイレントマジョリティー」のMV撮影現場としても非常に有名です。
そんな、さくら坂からの景色も10年で随分と変化しました。
Shibuya Sakura Stageの開業です。
写真右側にそびえ立つビルです。
この日は、さくら坂を下りシブヤサクラステージの横を恵比寿方面へと歩いてみました。

この道も、もう何度通ったことかわかりません。
学生時代と社会人なりたてのころ、ひょんなことから広尾に住んでおり、渋谷や新宿方面へ行くときは必ずこの道を自転車で走り抜けていました。
駅と同じく当時の面影はどこにもありません。
綺麗に舗装された道路、煌びやかな建物。お洒落な通りに変貌しています。

代官山へと向かう八幡通りにぶつかると、そこは取り残されたエリア。
先ほどの繁華街から、ものの数百メートルで景色は一変します。
かといって治安が悪いわけではなく、ただ昔のままなだけ。
薄暗い雲からは、カメラをかばうくらいの雨が降り続いています。
傘を片手にカメラを構えるのは少しコツがいるんですね。
撮っていて、ここは何も変わっていないし、これからもそんなに変わらないんだろうと思いました。
山手線を跨ぐ解体中の鉄橋。一部通行可のようでした。
さて、鉄橋の向こう側に映るのが、団地マニアのあいだでは有名な「渋谷東二丁目第2アパート」です。
ユニークなのが、団地の一階が都営バスの車庫になっている点にあります。
昼間のうちは引っ切りなしに大型バスが団地から入出を繰り返していますが、夜になると一遍。
時が止まったかのように整然と並ぶ不思議な、そしてちょっと不気味なバスたちの塊をみることができます。
学生時代、夜遊びの帰り道、横目にみる無言のバスの連なりに、静かな緊張感を抱きました。
この建物の向こう側には、明るく整った山手通りが続いています。
ですが、私はこの渋谷川と山手線を越えた、暗く細いこっち側が好きだったのです。

本当は、恵比寿駅を越えて広尾駅まで歩くつもりでした。
しかし弱まる気配のない雨脚に、傘を差しながらの撮影もなかなか集中できません。
大人しく恵比寿駅から山手線に乗り、歩いてきた道を電車で戻りました。
恵比寿と広尾。このふたつの街もまた、私にとって特別なところです。
また機会があれば私が切り取った街の姿をお見せしたいと思います。
この日のレンズは、宮崎光学の「HISTORIO-DAGONAR40mm F6.3」そして、コシナの「Voigtlander HELIAR classic 75mm F1.8」でした。
カメラはSIGMA fpL。
ダゴールで撮ったのが冒頭の彫刻作品「帰門」です。
他はヘリアーにビューファインダー「LVF-11」を付けての撮影になります。(だから雨で大変でした)
そして、ここからの二枚がまたダゴールです。
帰りの新宿駅のホームからクレーン車を覗く。
今回はコンクリートの写真が多かったので、最後は木の写真で締めたいと思います。
早朝に子供たちがつくっていた積み木の街。
こんな街並みも撮ってみたいな。