半・分解展、そしてgawaにまつわる興味深い人々を紹介する「Portraits」
今回は、オリジナル生地の開発を共に進めている毛織物職人・上村 直也さんにお話をうかがいました。
独立して1年目の私と、まだ学生だった上村さん。
私たちの出会いは「半・分解展 2016 愛知」でした。
2016年 愛知展は、名古屋の小さなギャラリーで開催した
【半・分解展を知ったきっかけは?】という問いかけに、上村さんはしばし考え、静かに語ってくれました。
「調べものをしているうち、偶然に半・分解展を知った」
「通常なら美術館でしか見ることができない衣装が目の前に並び、触れるという展示に興味が湧いた」
「実際に足を運び、自らの手で触れることで、想像以上の存在感に形容し難い凄みを覚えた」
自分が持つ洋服よりもさらに古い200年、300年前の実物に直に触れることのできる半・分解展は、衝撃的だったと当時を振り返ります。
学生のころから古いものに興味のあった上村さんは、100年前の洋服をファッションとして身につけてしまうほどのマニアぶりでした。
20代前半のころの上村さん。(今より老けて見える)
【古い洋服に惹かれる理由】を尋ねると、「人の歴史が刻まれているところ」「手作業の温もりがあるところ」と答えてくれました。
さらに「着ていて、人と被らないのが好き」と、日常のなかでの個性としても古い洋服を見つめています。
もともと学生時代にはアパレル業界を志してはいなかった上村さん。
しかし半・分解展に出会い、何世代も受け継がれてきた洋服が「現存している」という事実に、心が揺さぶられたと言います。
「洋服は残るものだ」という気づきが、進路を決定づけたのです。
そこからファストファッションではない、永く残るものづくり・洋服の世界を調べていくなかで、葛利毛織(くずりけおり)工業株式会社に辿り着いたそうです。
ホームページさえないその工場に自ら電話をかけ、見学を申し込むほどの熱意。
その行動力が現在の「毛織物職人」としての仕事に繋がっています。
「葛利毛織は、挑戦を受け入れる会社」だと上村さんは言います。
上村さんは葛利毛織で働きながら、自らのブランドWRAVEE(ラヴィー)を立ち上げています。
WRAVEEに使われる生地は、葛利毛織が積み重ねてきた歴史のなかから生まれたもの。
上村さんの挑戦を、葛谷社長は暖かく見守ってくれているそうです。
【上村さんにとって、良い生地とはなにか】
私の質問に少しの間をおいて「定番になる生地」と答えてくれました。
上村さんは「長い年月織り続けられることが、その価値の証明になっている」と指摘します。
実際に葛利毛織では流行に合わせた生地企画をほとんどやらず、定番品を織り続けること・生み出すことに注力しているといいます。
「同じようで同じではない」
何十年も織り続けてきた生地に日々向き合うことで、変わるものと変わらないものの輪郭が自然と見えてくるのでしょう。
最後に【葛利毛織の仕事にやりがいを感じるか】上村さんに聞いてみました。
「未来に残るものづくりをしている実感がある」
「流行に左右されず、日常に根ざしたスタンダードを極めたい」
確かな手応えのあるやりがいと、職人としての志。
上村さんの言葉は、静かでありながら芯の強さを感じさせます。
古い洋服に驚き、惹かれ、そこから自分の道を見出していった。
その驚きが一過性の感情ではなく、職人としての生き方にまでつながっていることに、私は深い敬意を覚えます。
上村さんが日々の仕事のなかで積み重ねている姿勢は、まさに職人の矜持そのものだと感じます。
そして、そうした生き様を間近で見られることは、仲間としてこの上なく心強いことでもあるのです。
上村 直也さんに企画・設計を依頼したオリジナル生地。
Kuzuri Flannel No.9(クズリ・フランネル・ナンバーナイン)
L'anglaise 1782(ラングレーズ・イチナナハチニ)
上記タグでは、私たちの生地づくりの道のりを追うことができます。
本生産が織りあがるまで、もう少しです。
皆さんにお見せできる日を私自身、心待ちにしています。