いつ足を運んでも、変わらずにションヘル織機の音が低く響いている葛利毛織(くずりけおり)工業株式会社。
9月上旬。
依頼していた復刻フランネルの9番色を受け取ってきました。
1日に織れるのは、わずか12メートル。
これは最新式の織機と比べると、およそ10分の1の速度。
葛利毛織は、このゆっくりとした歩みを止めることなく、50年あまりフランネルを織り続けてきたのです。
一本の糸の乱れも許されない緊張感の中で、精一杯、一所懸命に織り進められたフランネルは、ただの布ではなく時間の積層として生まれてきます。
織りあがったフランネルに手を触れると、密に織り込まれた「強さ」が、まず指先に伝わります。
そのまま生地の表面をなぞってみれば、しっとりとした「滑らかさ」と、わずかな表面起毛の「柔らかさ」に気付くでしょう。
「ただの丈夫な生地ではないな...」
そのことを理解したとき、このフランネルの魅力に惹き込まれていきます。
触れて、なぞったあとは、手の平にのせて揉んでみる。
芯の通った「しなやかさ」に驚きます。
布そのものが呼吸をしているように、豊かな弾力を感じられるのです。
また、目付420グラムとは思えない「かろやかさ」にも驚くことでしょう。(目付とは生地の重さのこと)
時間をかけて高密度に薄く織りあげているため、いやな重さを感じさせません。
手触りは、強く丈夫でありながらも、滑らかで柔らかい。
着心地は、しなやかでかろやか。
相反する要素を内包した、昔ながらのフランネル。
純粋にウール100%で織りあげるこの表情。
半・分解展の構造美を、gawaの造形美を表現するのに、これほどまでに適した生地はありません。
「9番色」
忘れられてしまった、この色の再現にこだわりました。
墨に近い濃度を持ちながらも、光の当たり方によってわずかに濃紺や銀灰色に揺らぎ、静かに表情を変えていきます。
ハレの場にもケの日にも寄り添う普遍性を備え、衣服の輪郭をきりりと引き締めてくれる存在です。
まさにgawaが目指す哲学にふさわしい色だと確信しています。
19世紀、フランネルは紳士服に欠かせない素材でした。
堅牢なブロードクロスが緊張感を纏わせるのに対し、フランネルはより生活に寄り添い、実用性と心地よさを両立してきました。
今回の復刻のフランネルも、その伝統を受け継ぎながら、私の哲学を添えて現代に蘇っています。
半・分解展を愛するあなたに、みて、さわってほしい。
ひとつの到達点が、この生地です。