輪郭を描く布

gawa

前回記事の文末で「輪郭をかたちにする」という話をしました。
今回は、そのためには欠かせない「素材」に踏み込んでいきます。

私は、これまでに2度、オリジナルの生地をつくったことがあります。

ひとつめは「150年前の裏地」
ざらりとした感触のモヘアウールの裏地は、中流階級のスーツや下士官の軍服に多く使われていました。
着心地は決して良いといえませんが、この独特な質感がたまらく好きで織ってもらったのです。


ふたつめは「200年前の表地」
19世紀初頭に紳士服の最高峰の生地と謳われた「ブロードクロス」の復刻に挑みました。
縮絨(しゅくじゅう)という加工になんと約100日もかかり、数十メートルだけ織ることができた幻の生地となりました。

どちらもファッションの文脈ではなく、あくまで嗜好品。
歴史衣装の研究から導き出した、実験的な復刻生地です。

 

そして、3度目の生地づくりは、ブランドの始まりの布でもあります。
あふれる好奇心をいったん手のひらに収め、余分をそぎ落とし「構造の具現化」という核を確かめる。
服の輪郭を際立たせることにのみ焦点をあて、色味は極力排し、ハリとコシのある質感を選び抜きました。


これまでのオリジナル生地は、歴史研究の再現という側面が強く、「織りあげること」がゴールでした。
しかし、今回のゴールは違います。

自分の内側にではなく、外側に旗を立てました。
「みんなと、つくる楽しみを共有する」ことがゴールです。
私のブランドは洋服だけでなく、布そのものも販売するのですから。

 

買ってくれた人が、楽しくつくることができる生地を、つくる。
そのために私が注力したポイントは3つ。

1・仕立て映えすること。
たとえ洋裁初心者さんが縫っても、仕立てがよくみえる。
縫いやすく、しなやかで、丈夫である。縫い間違って解いたとしても針跡が残らない。

2・こだわりの生地であること。
古き良きションヘル織機で打ち込んだ、クラシカルかつ上品な表情。
日本製のウール100%生地の真価を体感できる。着て育つ、風合い豊かな生地。

3・手に取りやすい価格であること。
リスクは私がとる。100m単位で発注し、価格を抑える。
高品質な生地に、みんなが挑戦できる機会を提供する。継続し供給できる素材選び。

 

上記指針から導き出したのは、半世紀前から日本で織り続けられてきたフランネル。
次回は、愛知県の老舗機屋「葛利毛織(くずりけおり)」のフランネルを紹介します。


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