世のなかは、便利になりました。
クリックひとつで届く洋服たち。
そのスピードに値段は関係なく、安い服も高い服もすぐに手に入れることができます。
環境省によると、1年間に日本で廃棄される服の量は45トンあまり。
現代において「自ら服をつくること」は、もはや多くの人にとって、非日常。
あえてその道を選ぶことは、ほんの一握りの人だけが味わう、特別な行為になりつつあります。
私は、gawaというブランドを通して、「つくる楽しみを共有したい」というメッセージを書き記してきました。
でも、ほんとうの、ほんとうは、「苦しみ」の共有なのかもしれません。

便利であること・簡単であることは、たいていの場合、苦しみを削ぎ落とした結果です。
苦しみを省いたとき、そこから一緒にこぼれ落ちるものがあります。
それが「楽しさ」だと私は思います。
私が提供する型紙は、少し不親切です。
市販の洋裁本や服づくりキットのように、丁寧な説明書はありません。
奇妙な線は迷宮への入り口、複雑な縫い目は瞬く間に時間を溶かす。
慣れた人でも、型紙を広げた瞬間に「これは…」と眉をひそめることでしょう。
だからこそ、面白く、楽しいのです。
縫ってはほどき、すすんでは立ち止まる。
夜更け、机の上に糸くずとコーヒーカップが並び、自分の手先の不器用さに苦笑する。
苦しむ時間が、つくる人だけに許された贅沢ではないでしょうか。
そして、ある日ふと、机の上に1着の服が完成している。
それは世界にひとつしかない、あなたがつくった服。
針を進めた日々も、ため息も、笑いも、すべてが縫い込まれた服なのです。

「半・分解展の型紙」は、あなたに苦しみを与えることでしょう。
「早く、簡単に」つくれるよう、型紙を現代的に整えてしまうこともできました。
しかし、私はそれをしません。
だって、好きだから。
私は、私が収集し、対話を重ねた、この子たちがほんとうに好きなんです。
「好きである」
ただそれだけで、苦しみの壁を容易に越えていけることを知っているから。
もしあなたが「簡単」や「便利」に少し飽きているなら、次は、苦しんでみませんか。
半・分解展の型紙で、とことん。
そしていま、苦しみながら仕込んでいる「gawaの型紙」は、もっとあなたに苦しみを与えることでしょう。
きっと、大丈夫。好きなら、大丈夫。
苦しみの先にある、つくる楽しみをあなたと共有したいのです。