ごあいさつ


袖を通してみると、
思わず胸が高鳴るような。

なぜかわからないのに、
内側から、静かに熱が湧いてくる。

表層には現れない。
けれど、たしかに身体が覚えている。
それはきっと、衣服の内部に宿る " 構造の記憶 " かもしれません。



私たちはふだん、
衣服の表側ばかりを見て生きています。

でもその裏側には、廃れてしまった美しさが、忘れ去られた歴史があるのです。
曲線の交わり、ステッチの重なり、内部に仕込まれた芯材。
すべては “ 着心地 ” という、ひとつの体験のために縫い合わされています。




この場所では、
18世紀から20世紀初頭にかけて生まれた衣服の
「構造」と「着心地」を型紙というかたちで販売しています。

それらは、ただのレプリカではありません。
本物を収集、研究して、心を震わせた “ 構造美 ” だけを抽出し、線にして描いたものです。




あなたもその線をなぞることで、
過去の職人と、歴史と、身体と――
寄り添い、繋がることができるでしょう。

針と糸が運ぶのは、布だけではありません。
かつて誰かが涙を流した、感動の続きです。




この型紙は、始まりにすぎません。
あなたが縫い進める手は、失われた構造に光を当てているのです。

やがて数百年後、あなたの縫った衣服がほどかれたとき、誰かの心に火を灯すことでしょう。



衣服標本家 長谷川 彰良

分解研究の記録